手塚治虫の一生

火の鳥


 火の鳥は、不死鳥を物語の中心視据えて、様々な世界を古代から遙か未来まで、地球や宇宙を舞台にし描いた物語で、生命の本質や人間の業などといったものを、手塚治虫自身の思想に裏打ちされた、壮大なスケールで描かれる超編漫画です。これは雑誌COMにて連載され始め、それ以降も過去、未来、過去、未来を交互に書いていき、手塚治虫本人が死亡した瞬間に作品が完成するという構想が寝られていたそうです。多くのクリエイター達がこの作品に影響を受けて、映像化、アニメ化、ラジオドラマ化が数多く行われる結果となりました。

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主なキャラクター

火の鳥

 人智を超えた存在で、100年に一度自らを火で焼いて再生(幼くなる)する事で永遠に生き続ける。元々は天界で飼われていましたが、地上界に逃げ出しました。人語を解し、未来を見通す。また、その生血を飲めば、永遠の命を得る事ができるといいます。呼称は鳳凰・火焔鳥・フェニックス(不死鳥)等。時空を超えて羽ばたく超生命体として描かれます。モデルは実在のキヌバネドリ目キヌバネドリ科の鳥ケツァール。その身体は宇宙生命(コスモゾーン)で形成されていて、関わった人々の魂をも吸収して体内で同化し生かし続ける事も可能。話によっては人との間に娘を得ていたりもします。

なお、『ブラック・ジャック』等の手塚作品において「フェニックス」等の名前でしばしば出演していますが、基本的には普通の鳥として出演し、言葉は話さない事が多いです。

猿田

 猿田彦、猿田博士、我王、鞍馬の天狗等、共通して大きな鼻の持ち主と運命付けられていますが、おのおのの編の世界観に合わせ名前やキャラクター、何ゆえにそのような大きな鼻を持ったのかの由来が少しずつ異なります。猿田彦、八百比丘尼の父は「元々醜い顔で、さらに鼻が大きくなった」、猿田博士は「元よりそのような顔と鼻」、我王は「病で醜くなると同時に鼻も大きくなる」、宇宙編の猿田は「元より鼻は大きく、さらに醜くなる」、生命編/太陽編の猿田は「鼻が大きいだけでそれ以外は醜くはない」等、作品ごとで異なります。鼻が大きい訳も、猿田彦は蜂によるもの、八百比丘尼の父は鼻癌ですが、それ以外は要因不明です。

作者自身がモデルという説もありますが、作者自身の自画像とは懸け離れていて、作者自身をモデルにしたキャラクターは、乱世編に実の先祖でもある手塚太郎光盛として登場しています。

始祖猿田彦の犯した数々の悪行を清算する為に酷い目に遭う宿命にありますが、『鉄腕アトム』のお茶の水博士は罪の清算が終わりつつある結果であると後に設定されました。アトム作中でお茶の水博士が事件に巻き込まれ酷い目に遭ったり果ては死にかけたりするのはまだ罪が残っているためらしい。「鳳凰編」では我王が「未来編」の猿田として生まれ変わり人類の最期を看取ることが描写されています。基本的には猿田の人物の殆んどはその醜さから女の人との縁が無い事が多いが、一部にはその容姿とは関係無しに純粋に正反対の美女に惚れられた者もいて、その女の人は後の猿田の名がつく者に繋がるとされる子孫を身籠っています。

ムーピー

 いかなる厳しい周囲にも耐えうる生命力を持つ不定形生物。巧みな変身能力を有し、人型をとり人間の社会に溶け込むこともできるが、その能力から人気が高く人に狩られてしまうため、どこかの星で集団でひっそりと暮らしています。「未来編」では一種のテレパシー能力を用いた「ムーピー・ゲーム」が人類をスポイルするとして、保有を禁止されたペットですので、メガロポリスヤマトでは1匹残らず殺すよう命令が出されています。「未来編」の主人公山之辺マサトの恋人タマミがそのムーピーでした。寿命は人間より遥かに長く、500年位は生きられます。「望郷編」では人間とムーピーのハーフが繁栄します。ハーフ達は視力と耳朶(聴力)が無く、代わりに触角が生え、これで感覚を認知しています。

ロック

35世紀における都市国家メガロポリスヤマトの中央本部に勤務する1級人類戦士。エリートで、同期でありながら総合審査によって自分の部下となった「未来編」の主人公マサトに対して辛く当たるが、戦争を嫌い「未来編」において人間の愚かさを見事に演じ切ったキャラクターでもあります。試験管ベビーとして誕生したので両親はわからず、強いて言えば自分を生み出した精子と卵子を選んだ中央コンピュータ「ハレルヤ」が親です。プロットのみの「大地編」では主人公として登場する予定でした。

ロビタ

26世紀、「復帰編」にて主人公のレオナとチヒロが結ばれて誕生。電子頭脳が大きくなりすぎて重心が上の方に行ってしまった為バランスが悪く、二足歩行を断念、「脚は取り外した方が良いぞ」提案され両脚は取り外され作中では「摩擦よけの車」と表現される臀部のベアリングで滑るように動く。腕は2本指ですので、枠組みは非常に簡素に出来ています。一方でレオナの精神と記憶を受け継いだ為、普通のロボットと違い人間臭い感情を持ちます。稼動限界の後に業者が引き取って、その枠組みを模して記憶をコピーした物が量産されます。技術の進歩によってより精巧なロボットが造られても、ロビタはその人間臭い感情によって殆どの人間に好まれ数世紀に亘って量産されるが、その一方でロボットを人間の道具と考える人間にとっては極めて不快な存在でもありました。31世紀の頃、子どもが親や家政婦よりなついているロビタに会いに放射能農場に迷い込んだために死亡したことがロビタが殺したという冤罪を受けるが、数十年間裁判を繰り返しついに、裁判官が個体ナンバーを特定できなかったという訳から事件発生時に農場で働いていたロビタ全員が溶解処置されます。同胞をそのような形で失った世界中のロビタは集団自決を行い、稼動可能な物は全て溶鉱炉に身を投じる。月にいて集団自決に参加できず、エネルギー切れによる自決を選んだ最後の一体のロビタは、35世紀に猿田博士に救助され、「未来編」では猿田博士の助手として働くが、ロックにより破壊されてしまいます。

牧村五郎

「宇宙編」で登場するアストロノーツ(宇宙飛行士)。生まれた時からアストロノーツとなる事を宿命づけられ、外宇宙に地球由来の細菌を持ち込まないために、無菌室で成長します。初恋の女の人に裏切られた事がトラウマとなって、女の人に手が早くかつ冷淡です。その初恋の女の人の幻に惑わされる形で異星人を虐殺し、その罪により火の鳥から、若返っては赤ん坊に戻り、再び成長して大人に戻っては若返るというサイクルを繰り返し、永遠に生き続けなければならない罰を受けています。赤ん坊に戻っている間は、「場合」と呼称される自身の姿を模した等身大の人型ロボットに乗り込み操縦をしています。時系列的に見て恐らく罰を受ける前である「望郷編」において、地球に帰郷する中途のロミと出会う。

山之辺マサト

「未来編」の主人公です。猿田と共に人類の最期を見届け、なお数十億年の時を経て新たな人類の誕生を待つことを運命づけられる人間。「鳳凰編」に登場する茜丸がその生まれ変わりとした解釈もあって、「劇団わらび座」によるミュージカル「火の鳥鳳凰編」ではストーリーにそのような解釈がみられます。ただし、これは「鳳凰編」中において茜丸が死亡するシーンで「茜丸は二度と人間に転生する事はない」と火の鳥が告げていることと明らかに矛盾しています。

チヒロ

精密機械局で作られた量産型の事務ロボット。2545号は「望郷編」にて地球に不法侵入したロミとコムを助け、61298号は「復帰編」でチヒロが美少女に見える主人公レオナと出会い愛の感情を得たのです。「望郷編」時のチヒロ2545号の話によれば、チヒロ型の仲間は13,692,841体、他の型も合わせると世界に1,277,554,539体の仲間がいます。

八百比丘尼

「異形編」「太陽編」に登場。戦国時代、数々の非道を行ってきた成り上がりの領主である父親から、男の人として育てられていた女の人です。父親が致死性の鼻の病にかかった際、その治療を行わせないため八百比丘尼を殺害しますが、その罰として、無限に繰り返す時間の中に閉じ込められ、八百比丘尼として永遠に若い頃の自分に殺され続けるという宿命を負わされます。「太陽編」で、霊界の戦いで傷ついた神々の手当てを行っているのは、負った罪を清算する方法であると語られています。

火の鳥の各編

執筆された作品

黎明編(漫画少年版)

後の黎明編と少女クラブ編に似たような展開となるがヒミコが岩戸の中に入るところで終了し未完。エジプト編に登場するヨタ・ポポ・ノロの三匹が登場するがヨタはキツネではなく猿でした。

エジプト編

天国で飼われていた火の鳥が、ある時脱出に成功し下界へと降り立つ。

ギリシャ編

エジプト編の続き。

ローマ編

ギリシャ編の続き。

黎明編

3世紀の日本。ヤマタイ国とクマソ国の争いを舞台に、ヒナクとナギの姉弟、ヒナクと結ばれるヤマタイの間者グズリ、防人の猿田彦たちの数奇な運命を描く。ヤマタイ国がクマソを攻略した裏には、老いた卑弥呼が火の鳥の生き血を欲していたという事情がありました。大和朝廷の成立については定説ではなく本作品執筆時には話題になった江上波夫の騎馬民族説を採用しているが作品中でも邪馬台国と大和朝廷の風俗が似通っている等、矛盾した描写も見られます。その後何度か描き直されていて、後年の版では主人公たちを襲う様々なスタイルの狼の中に「ファミコン型」や「赤塚不二夫型」等も登場します。猿田彦は転生し、火の鳥と共にシリーズ全体の狂言回し的な役回りを果たすことになります。

未来編

西暦3404年。地球は滅亡の淵にあって、地上に人間はおろか生物は殆ど住めなくなっていました。人類は世界の5箇所に作った地下都市“永遠の都”ことメガロポリスでコンピュータに自らの支配を委ねました。メガロポリス「ヤマト」と「レングード」の対立に端を発した戦争勃発で、地球上のあまねく生物が死に絶える。独り生き残った山之辺マサトは火の鳥に地球復帰の命を受ける。マサトは永い孤独と試行錯誤の中で、結局、生命の進化を見守るほかないことを悟る。肉体が滅び意識体となったマサトは、原始生命から、再び人類が文明を生み出すまで、生命の悠久の歴史を見守り続ける。結末が黎明編へ繋がるような展開となっていて、「火の鳥」全編の構成を示唆しています。なお、NHKのアニメでは尺の都合及び大人の都合によりナメクジ文明のエピソードが全面的にカットされています。

ヤマト編

古墳時代の日本。主人公のヤマト国の王子オグナと、ヒロインのクマソの長・川上タケルの妹カジカの間に芽生えた許されざる愛の物語。オグナはヤマトタケル、川上タケルは川上梟帥がモデル。『古事記』・『日本書紀』の日本武尊伝説と、日本書紀の垂仁紀にある埋められた殉死者のうめき声が数日にわたって聞こえたという殉死の風習廃止と埴輪にまつわるエピソードも火の鳥の生き血の効果であるとし、期間も1年にわたっての事として下敷きにしています。石舞台古墳造営にまつわるエピソードがありますが、史実ではもっと後代の古墳ですので、殉死者が埋められているという事も無い。手塚治虫はあくまで『古事記』・『日本書紀』は伝説であって、実在の天皇家とは何も関係は無いとコメントしています。

なお、作中で川上タケルは、"長島"なる部下に「王」と呼ばれていてていますが、これは川上タケル=川上哲治としてクマソを巨人見立てその部下の長島=長嶋茂雄という洒落であったが川上が監督を引退したため、川上タケルを王貞治に見立てる詳細に改稿されています。オグナが女装してタケルを暗殺するくだりは神話どおりですが、復讐の追跡を指揮するカジカは国境で率いてきた軍を帰し、単身男装して奴隷としてヤマトに潜入、非力なために鞭を受けているところをタケルに助けられるという展開で、ヒーロー、ヒロイン両方に与えられる異装、女王(継承者)が自らの意志で奴隷に身を落として苦役を受ける不条理等、コミカルタッチの中に手塚独自の倒錯趣味が埋め込まれています。

宇宙編

西暦2577年。ベテルギウス第3惑星から地球へ向かう宇宙船は、操縦者である牧村五郎の自殺によって事故に遭う。牧村以外の男女4人の乗務員は宇宙救命ボートで脱出します。ですが、自殺したと思われた牧村五郎には、火の鳥もかかわる因縁めいた過去がありました。乗務員間の切ない愛憎のドラマ。

鳳凰編

奈良時代。権力に翻弄され苦悩する二人の仏師、茜丸と我王の宿命の戦いを吉備真備と橘諸兄による奈良東大寺の大仏建立を絡めて描く。火の鳥は、我王には彼の悪行のせいで子孫達が持つ事になる宿命を語り、怒りを奮起させる事で彼の腕をより上達させる。一方、悪党だった頃の我王に腕を傷つけられた過去を持ち、その事実を暴露して、我王に罰を与え都から追放する事で栄華を得た茜丸には、二度と人間には生まれ変わることができないという残酷な運命を、彼の死の直前に告げる。

苦しみに耐え続けながらも生き続け、最後にはそれを肯定する我王と、権力の庇護を得て慢心に陥ってしまった茜丸の対比。人間の名誉と愛を望む醜さ、そして真の幸福とはなにかといったような深い題材を取り上げ、アニメ化もされました。ただし史実では橘諸兄によって重用されている吉備真備が、この作品では政敵として対立する等、史実と異なる点も多々見られる(良弁が即身仏になるくだりは、身代わりを立てたと解説されている)。本編がK&Mにてフィギュア化されました。

復帰編

西暦2482年。事故に遭うも科学の力で復帰出来た主人公の少年レオナは、身体の大半(特に脳組織)を人造細胞で置き換える治療を行った結果、認識障害を起こし、生命体を無機物、ロボットはじめいくつかの人工物を有機物(生命体)と認知するようになってしまう。その結果、ロボットであるチヒロを人間の女の人のように認知し、恋心を抱き愛し合うようになります。認識障害が改善されてより後もチヒロを人間の女の人と認知し愛する事に変わり無く、結果チヒロと駆け落ちしてしまう。生命に細工を加えてしまった人間の罪と罰、問われる生死の意味。主人公の事故死の背景には、アメリカにおいて主人公がフェニックス(火の鳥)の生き血を入手したという過去がからんでいる。

なお、レオナは頭の手術を受けたため一時的に坊主頭となっていますが、NHKのテレビアニメ版では頭に包帯を巻いたのみの描写となっており坊主頭では無く、その点がぼかされていました。

羽衣編

10世紀、三保の松原。天の羽衣の伝説を元に描いた小編。

全編が、舞台で演じられる芝居を客席から見たような視点で描かれたものになっています。非常に短い作品ですが、放射能障害に関しての表現に関しての問題や作者の意向があって、昭和55年まで単行本化されませんでした。本来は「望郷編(COM版)」と関連する話ですが、昭和55年に単行本化される際、描き直された後は全く独立した話になっています。

望郷編(COM版)

城之内博士が育て上げた「第二の地球」で生活する少年コム。COMの休刊によって、未完のまま中断されます。放射能障害を描いたCOM版「羽衣編」を前提としているため、「羽衣編」改稿に伴い、構想を新たに関連のない物語として『マンガ少年』版「望郷編」が描かれ、この版は未完のままで長く単行本に収録されることがありませんでした。

乱世編(COM版)

後の「乱世編」の元となる話ですが、『COM』が再び休刊したことにともない連載中断しています。弁太のキャラクターがスマートに描かれていて、猿と子犬のエピソードは『マンガ少年』版に流用されています。

望郷編

八丈島のタナ婆伝説や、それと共通する西南太平洋各島の妊婦創世伝説を下敷きとしています。エデン17というちっちゃな星で子孫の繁栄のために健気に生きる地球人ロミ。老いた彼女は地球への望郷の想いを募らせる。『COM』版の「望郷編」(未完)との関連はほとんどなく、唯一、被爆した少年コムだけが、ムーピーと地球人との混血児という設定で再登場しています。何度も描き直されていて、雑誌掲載版、角川書店版、朝日ソノラマ版・講談社版の各単行本では、中盤より後登場する宇宙船に他の宇宙人が搭乗したり、地球に向かう中途に立ち寄る星に違うものがあったりする等詳細が異なります。

乱世編

平安末期。木こりの弁太(弁慶)と田舎娘おぶうは源平の抗争に巻き込まれ、すれ違いの運命を送っていく。源平の抗争や源頼朝・義経兄弟の相克には、火の鳥の争奪が関わっているという筋立て。弁慶伝説を下敷きとした「鳳凰編」の我王も義経の師匠鞍馬天狗として養生しています。実体化状態の火の鳥は本編では登場せずに、作中で火の鳥として登場するのは実際の所孔雀でした。講談社版では義経と清盛が白兵衛と赤兵衛に生まれ変わる際に数ページだけ火の鳥が登場しています。

何度も描き直されていて、雑誌掲載版、角川書店版、朝日ソノラマ版・講談社版とかなり細部が異なります。英雄として名高い義経が、本作では目的の達成のためには何物をも犠牲にして憚らぬマキャベリストとして描かれます。もっとも作中で義経が行う非道な行為には、一ノ谷の戦いの際に民家に火を放った件や、壇ノ浦の戦いの際に非戦闘員である船の漕ぎ手を射た件等、平家物語や義経記に扱われているものも多いです。

生命編

西暦2155年。視聴率を上げようと焦るTVプロデューサー青居は、クローン人間による殺人番組を考案します。クローン技術の本場であるペルーに向かうが、ペルーがクローン技術の実用化に成功したのは、火の鳥の血を引く女の人の影響がありました。雑誌掲載版と単行本では、EDがぜんぜん異なります。

異形編

戦国の世。応仁の乱の功績で名をあげた残虐非情の父を恨み、その復讐のため尼を殺した左近介に恐ろしい因果応報が巡ってくる。八百比丘尼伝説を下敷きにしています。

太陽編

7世紀と21世紀の2つの時代が舞台です。千四百年の時代を隔てた二人の主人公の物語が並行して語られ、そのうち運命がシンクロしてゆく。白村江の戦いで新羅に敗れ、唐の将軍に顔の皮を剥がされ狼の顔を被せられた百済の王族の血を引く少年ハリマは、命を助けられた占い師のオババ、百済救援のために派遣された将軍・阿部比羅夫と共に日本に漂着して犬上宿禰(いぬがみのすくね)と名乗り、そのうち壬申の乱に巻き込まれてゆく。壬申の乱は世俗での権力闘争であると同時に、外来宗教である仏教と日本在来の神々との霊的な戦争でもありました。一方、21世紀の日本は宗教団体「光」一族に支配されていて、1人の主人公、坂東スグルは対立勢力(シャドー)の工作員として地下で暮らしています。ともに政治化された宗教がテーマになっていて、皮肉なことに、双方とも火の鳥自身がご神体となっています。

単行本化の際に連載版の未来側のストーリーが大範囲に変更され、火の鳥が登場したり、猿田が罰を受ける描写等かなりのカットがなされています。古代側では火の鳥は傍観者に徹していて、その一方で未来において直接介入するのは行動が矛盾していて、それを整合させるためと推測されます。また、NHKのテレビアニメ版では尺の都合で未来側の物語は描かれませんでした。

休憩INTERMISSION

手塚自身が登場し、本作のテーマや完結時期、死生観等について語るエッセイ風の短編。ストーリー上の関連は無い。

このほか、手塚以外の作家によって執筆された作品ではアニメ映画「火の鳥2772」をコミカライズした御厨さと美による漫画(初出:『マンガ少年』(昭和55年2月号-4月号)があります。

おすすめ手塚作品

執筆されなかった作品

大地編(シノプシスのみ)

日中戦争時の上海を舞台に、関東軍の戦意高揚のため、中国大陸に伝説の仙鳥の探索を計画します。シノプシスには間久部緑郎(ロック)、猿田博士が登場。

後述の昭和63年のミュージカルによる『火の鳥』上演のための原作として、上記詳細で新作描き下ろしを連載をする予定だったのですが、よりSF的な詳細にとの希望があったためペンディングとなってました。『野性時代』に平成元年春から掲載されるはずだったとも言われるが、手塚が病に倒れたことから執筆される事はありませんでした。ただし、『野性時代』の編集部は『火の鳥』の続編ではなく『シュマリ』の続編を望んでいたといいます。

アトム(再生?)編(構想のみ)

本編OA後に手塚治虫自身が21世紀が舞台であるので『鉄腕アトム』の外伝を描いてみたいと構想を語っています。具体的な構想があったわけではないが、断片的なアイデアとして、「アトムはロボットですので、不死の存在と言えます。その魂は、最終的には、火の鳥に救われるのではないか」と言うことと、「意識していたわけではないのですが、お茶の水博士はその容貌からして、猿田の血を引いていると思う。彼はアトムの最期を見届けることになるだろう」と語っています。長く手塚のチーフアシスタントを務めた福元一義によれば本編が完結編となる予定だったとあります。この構想の一部が平成15年のゲーム「ASTROBOY・鉄腕アトム-アトムハートの秘密-」に生かされています。

現代(完結)編(構想のみ)

手塚治虫は「火の鳥」の全体構成を、黎明編から時代を下り、また未来編から時代を遡って、現代編で結実するものとしていました。しかし作品自体が長期化するにつれて、「現代」自体がその時によって変化してしまうため、この初期構想は実現しませんでした。実際にも太陽編では時代設定が21世紀初頭、及び飛鳥時代となっています。異形編において戦国時代まで時代が下った訳ですが、再び時代を遡った事になり、初期構想が破たんした事を示しています。また太陽編の連載時は昭和55年代で21世紀は未来扱いだったのですが、21世紀が到来して過去になってしまった。

後に角川春樹との対談の中で、手塚治虫自身が「現代編」の新たな構想を語っています。手塚は「現代」というものの解釈を「自分の体から魂が離れる時」だとし、その時こそ「現代編」を描く時だとしました。ほかに「1コマ」「ひとつの話」「火の鳥の終末になっていること」、と「現代編」の構想を語りました。しかし、この新たな構想による「現代編」が描かれる事はありませんでした。『ブラック・ジャック』の一編である「不死鳥」において、現代社会の中の「火の鳥」が描かれていますが、手塚自身がこの作品を封印していたこともあり(「火の鳥」の「現代編」との兼ね合いを考えての措置だったと言われている)、「現代編」との関連は薄いと見るべきであろう。

また、前述の「火の鳥2772」は手塚治虫漫画全集で手塚自身が描き下ろしで再漫画化する予定もありましたが、実現しませんでした。その後、太陽編完結後にもミュージカル原作として描き下ろしをする話があったといいます。

手塚治虫の一生

不朽の名作//